志村けんのコント『変なおじさん』。集団の中に、志村扮する変なおじさんが突如現れ、ラストで「だっふんだ」と言うと周囲の者はずっこける。そういうコントだ。

ところでこのコント、ラストで必ずある音がする。
「パリーンッ」
そう、ガラスが割れる音だ。

人が集まり、『変なおじさん』についての話をすると、最終的な話題はいつも同じになる。
「なぜラストでガラスが割れる音がするのか?」
この問題に関しては様々な意見が飛び交う。最も多いのは「そんな音鳴ったっけ?」であり、「気にしたことない」「別に何でもよい」と続くのだが、それらの意見を除けば、「声でガラスが割れたから」という意見が多い。映画『ブリキの太鼓』の少年オスカル・マツェラートのように、「だっふんだ」の声でガラスが割れたというわけである。
変なおじさんは文字通り変だ。であるから、声でガラスを割る能力を持っていてもおかしくはない。突然現れ、周囲に恐怖と混乱を与えつつ唄って踊る。それだけでも十分変なのに、かつ、最後に声でガラスを割る。「変」な部分がより際立つではないか。

「声ではなく、風だ」という意見もある。「だっふんだ」前の志村のひと踊りが風を起こし、ガラスを割っているのではないかというものだ。
改めて「踊り」に注目してみる。冒頭の「変なおじさん、だから変なおじさん」の振りは、両手を交互に前方に伸ばし、手のひら返しをする。見方によっては、手のひらで風を押しだしているようではないか。その後の腰の周りで手を回す仕草も、風を自在に操っているように見える。なるほど、声で割るよりも現実的な意見であろう。

ただし、風を起こしてからガラスが割れるまでにややタイムラグがあるのが気になる。このタイムラグを気にする者たちは、ガラスが割れる直前の志村の行動にこだわる。そこにガラスが割れる原因があるというのだ。
音が鳴る直前、つまり、「だっふんだ」の台詞直後に注目すると、変なおじさんは頬をめいっぱい膨らませ息を止めるような顔をする。その時に「何らかの力」を発動しガラスを割っているのではないかというわけだ。確かに、何かしらの力を発動していそうな顔だ。
この説の弱点はその「何らかの力」の正体がわからないところである。逆にそれが変なおじさんのミステリアスさを増大させているとも言えるのだが。

いずれにせよ、これらの説はどれも「変なおじさんが能動的にガラスを割っている」ことを立脚点としたものである。しかし、そうではない可能性、つまり、「変なおじさん以外の何者かがガラスを割っている」という視点も必要である。「以外」の意見の中で高い支持を集めているのは、以下の二つである。

『変なおじさんが怖くて、その場から脱出しようとした人が割った』

『悲鳴聞いた人が窓から突入して助けにきてくれた』

前者は変なおじさんに巻き込まれた人が恐怖から脱出しようとした行動であり、後者は騒ぎを聞きつけた外部の人の行動である。どちらも緊迫感が尋常ではなく、狂気に近い「変」さが突出し、リアリティがある。

また、こんな意見もある。

『尾崎豊が近づいて来た』

あの音は、夜の校舎の窓ガラス壊してまわっている尾崎豊によるものだという説だ。
しかしこの場合、変なおじさんが出現するところに必ず尾崎がいなければならず、多少無理がある。しかも、変なおじさんのコントに尾崎豊が出演した記録もなければ、共通点も見当たらない。そのため、今この説を支持するものはほぼ存在しない。

もうひとつこういうのもある。

『正気に戻すために割っている』

変になり過ぎると自分を制御できなくなってしまうおじさんをガラスの音で正気に戻すというものだ。なぜガラスの音なのかはわからぬが、幼少時におじさんはガラスで何かあったのかなと想像させ、こちらもミステリアスさを感じさせてくれる。

さらに、割ったのは変なおじさんでもおじさん以外でもないと考える者もいる。
彼らが主張するのがこれだ。

『殻を破った音』

変なおじさんが変なことをすることによって殻が破れ、さらなる変なおじさんへと成長する。その時の音であるというわけだ。

以上、いろいろと考えてみたが、全てが変なおじさんの夢だとしたならばどうだろう。
夢占い的にガラスが割れるというのは何か大切なものを失う暗示であると言われている。

変なおじさんは今まで何を失ってきたのだろうか?

そして、これから何を失うのだろうか?